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大阪地方裁判所 昭和37年(レ)144号 判決 1964年5月11日

控訴人(附帯被控訴人・以下控訴人という) 岡田政豊

右訴訟代理人弁護士 岡時寿

被控訴人 白井敏則

被控訴人(附帯控訴人・以下被控訴人という) 小出悦子

右訴訟代理人弁護士 国枝享

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、被控訴人白井敏則は、同被控訴人において別紙目録記載の土地の登記名義を回復したときには、控訴人に対し、同土地について控訴人のための所有権移転登記手続をせよ。

三、被控訴人小出悦子と控訴人との間で、別紙目録記載の土地が同被控訴人の所有であることを確認する。

四、当審での訴訟費用は、控訴人と被控訴人小出悦子との間においては控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人白井敏則との間においては同被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  本件土地がもと訴外守屋忠孝の所有であつたこと、控訴人主張のとおり(但し、宇太郎が控訴人の代理人としてなしたとの点を除く)宇太郎が同訴外人からこれを買受けたことは当事者間に争いがない。

二  原審並びに当審証人≪中略≫の各供述によると、右訴外人との売買の際宇太郎は控訴人のためにすることを表示せず、売主守屋忠孝においても控訴人のためにすることを知らずまた知ることを得ない事情にあつたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はないから、右買入の動機、資金の出所如何にかかわらず宇太郎が本件土地の買主で所有権も一応は同人が取得したものと言わなければならない。

三  しかし、控訴人の、宇太郎が控訴人の代理人であつたと主張する事実関係は間接代理の主張も含んでいると解される。≪証拠省略≫の全趣旨によると、控訴人は、その事業のため本件土地の購入を決意したのであるが、右認定の本件売買契約の事前に、買受条件を告げて父宇太郎にその契約締結ならびに履行方を一任して、かねて預けてあつた控訴人の資金から代金支払を済ますことを委託し、宇太郎はこれを承諾し、その結果守屋忠孝から本件土地を買受けたことが認められる。そうすると、宇太郎と控訴人間では、右の委任とともに、本件土地の売買契約の効果を当初から控訴人に帰属させる合意が成立していたと解すべきであるから、本件土地の所有権は宇太郎から更に控訴人に移転したと言うべきである。

四  被控訴人らは、被控訴人白井が宇太郎から本件土地を贈与された旨、事実らん第三、二、2のとおり主張し、被控訴人白井は右主張に副う供述をするけれども、右認定に用いた各証拠によつて認められる、

控訴人は父宇太郎の事業とは別に従前呉市で営んできた駐留軍自動車等の払下入札販売業を、同軍の引揚げにより東京相模原方面で営まなければならなくなり、払下自動車置場ならびに東京方面進出の足場として土地を入手する必要を生じ、自ら深し求めて本件土地の買受を決意しその下交渉を済ませたこと、買受代金は控訴人が自ら出資し父宇太郎の援助も受けて営んできた右事業の収益金より支払われたこと、当時控訴人は宇太郎経営の岡田自動車とは関係がなかつたこと、同社は遠い将来はともかく差当りこれを使用する意図はなかつたこと、本件土地の公租公課は被控訴人白井が支払つていなかつたこと、前主守屋忠孝からの売買登記の登記済証は岡田宇太郎が所持していたこと、被控訴人白井は兎代子との離婚の際本件土地の自由な処分を禁じられたこと、

当審証人瀬戸川隆一の証言によつて認められる、被控訴人白井は右離婚の際その所有名義のものは名義を変更する旨告げられたこと、

などを照らし合せると、被控訴人白井の右供述はたやすく信用できない。また、原審証人小柳富雄の第二回供述中、日常の話の中で被控訴人白井の妻子のために同控訴人名義の土地を買つてあるかの如き話を聞いた事がある様に思うとの証言は、その趣旨自体から確実ではないし、原審証人高木龍修の証言によると、被控訴人白井に対し、離婚の話合の仲介者高木龍修は、本件土地の勝手な処分はせず子供に与えるようにするが良い旨告げたことが認められるが、前記被控訴人白井の供述を信用しない理由として認定したところならびに右認定に用いた証拠によると、被控訴人白井と兎代子間の子は離婚後岡田家で養育する話合になつていた事実が認められるところからすると、右高木の言明をもつて被控訴人ら主張のように贈与の意思表示又は過去になされた贈与の事実を確認したものと解するのは相当ではない。よつて被控訴人らの右主張は理由がない。

そうすると、少くとも控訴人と被控訴人白井間では、本件土地の所有権は控訴人に帰属すると解されるところ、登記名義を有しない所有者は現在の真実の所有権の帰属関係に即応させるため登記名義人に対し自己を取得者とする所有権移転登記を求めることができるから、同被控訴人が登記名義を回復したときに右登記手続をなすことを求める将来の給付請求であるところの(控訴人は被控訴人小出に対する請求が認容されたときと言うが、上記の趣旨の将来の給付請求と解される。)控訴人の当審で変更した新請求は正当である。

五  ところで、宇太郎から前主守屋忠孝への残代金支払ならびに同人からの所有権移転登記手続をすることを命じられた訴外小柳富雄が、司法書士に買主を被控訴人白井(当時岡田姓)と表示したため、同被控訴人を取得者とする所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫の全趣旨によると、宇太郎は、いずれは本件土地が岡田自動車の所有となることを予想し税務対策上の便宜などの理由から、宇太郎の長女で控訴人の姉である兎代子の夫(のちに離婚して現在の白井姓となる)で同社の専務取締役の被控訴人白井に無断で同人の所有名義に登記することを考え右小柳富雄に右登記手続を命じたこと、売主守屋忠孝は、買主の名を確知していなかつたから、右のとおりの被控訴人白井のための所有権移転登記がなされるに至つたことが認められる。証人岡田宇太郎の右認定に反する供述は、証人小柳富雄の証言に比べたやすく信用できない。

右認定のごとく、控訴人から売買及びその登記の委任を受けた宇太郎が、売主との通謀なくして被控訴人白井にも無断でその名義に本件土地の所有権移転登記をしていたようなときに、第三者が善意で同被控訴人から本件土地を買受けた場合には、直接民法九四条二項にはあたらないが、同条及び同法一〇九条、一一〇条の善意の取引者保護の精神からして、右九四条二項の類推適用により、控訴人は右第三者に対し被控訴人白井が所有権を有しなかつたことをもつて対抗できないものと解すべきである(最高裁昭和二九年八月二〇日判決民集八巻八号一五〇五頁参照)。そして、この場合においても、対抗の意味は、第三者が無効を承認しない限りは第三者の取引行為に関しては被控訴人白井が真実の所有者となるとの趣旨に解するのが相当である(このように解しても、登記に公信力を与えたことにはならない)。被控訴人小出の事実らん第三、一、6の主張も、右の趣旨を言うものと解される。

六  ≪証拠省略≫によると、被控訴人白井は実兄白井一夫とはかつて本件土地上に白井一夫のための虚偽の抵当権設定契約をし山田泰次郎司法書士を保証人とする保証書を作成させてその登記及びその抹消登記をして登記済証を作り、これを提示して小松に本件土地の買取方を求め、本件土地上の工作用自動車トレーラーの収去を確約したので、昭和三五年四月二一日、小松は同被控訴人から本件土地を代金五二万円で買受け登記に要する書類を受領したこと(同被控訴人と小松間で本件土地の売買契約が成立したことは小松本人のためにしたか被控訴人小出の代理人としてしたかの点を除き当事者間に争いがない)、右山田司法書士は、前主守屋忠孝から被控訴人白井への所有権移転登記手続に関与していなく、本件土地の真実の所有者が同被控訴人でないことを知らず、小松においても同様であつたこと、被控訴人小出は、従前から小松と不動産取引があつたが、同訴外人が本件土地を入手したことを遇々知つて同年五月四日代金六五万円でこれを買受け、小松の登記が未了であつたので同訴外人が被控訴人白井より受領していた書類により、本件当事者間に争いがない被控訴人間の所有権移転登記をなしたことが認められる。右認定に反しこれをくつがえすに足る資料は見当らない。

七  そうすると、控訴人は被控訴人小出に対し、被控訴人白井が所有者でなかつたことを主張できないから、控訴人と被控訴人小出間では本件土地の所有権は同被控訴人に帰属することとなる。したがつて控訴人の被控訴人小出に対する本件登記抹消請求は失当であり、被控訴人小出が控訴人との間で本件土地の所有権が同被控訴人に属することの確認を求める請求は正当である。

八  控訴人は、被控訴人ら間の所有権移転登記が不動産登記法三五条一項三号に違反すると主張するが、仮に右主張どおりの事実があつても登記申請が受理され登記がなされれば右法規違反と言うだけではこれを抹消することはできないから、主張自体失当である。

九  よつて控訴人の被控訴人小出に対する請求を棄却した原判決は相当で、これに対する本件控訴は民訴三八四条二項により失当として棄却すべきも、控訴人の当審で変更した被控訴人白井に対する請求、および、被控訴人小出の附帯控訴による控訴人に対する反訴請求はいずれも正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 野口殷稔 井関正裕)

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